育ちの家族にまつわる不具合にはこと足りないので、ふと思い出した「しんどかった結婚式」のことでも。
設定はフィクションです。
親戚の結婚式
親戚にたいそうヒステリックな女性がおり、口の悪い我々兄妹はその人を「キセキさん」と呼んでいた。
キセキさんは、嫁姑的なトラブルやら家族のことなど、何かと喚いたり怒鳴り散らすタイプ。
たまに集まる親族の場でも、当事者がいるような状況でも気にせず、
「如何に私は大変か、私は被害者であるか、あなた達が悪いか、私はかわいそうか」
をアピールするパワータイプ。
親族や家族という関係性が時に暴力的なのはわかっていたが、昔の田舎とかならともかく、ここは現代で東京なんだから、嫌な人とは距離を取ればいいのにな、と、今では思ったりもする。
とはいえ、まぁ、数十年前は東京でも小規模に「田舎の風習」みたいなものが再現されて、息苦しいこともあったんだろうし、親族に一人くらいヒステリックな人はいるよね、くらいの感じだった。
さて、ある日、キセキさんの息子さんがご結婚されることになり、我々家族は親族として式に呼ばれることになった。
息子さん(仮名:なおとさん)はキセキさんとは違い感じのいいお兄さんで、私たちは素直に「よかったね」のお祝いの気持ちで式に参加した。
キセキさんが絡む案件なので若干の嫌な予感はしたけど、お祝いの場で早々ヤバイことなんか起きなかろうと。
さて、なおとさんには弟のミキオさんがいる。
ミキオさんには軽度の知的障害があるのだが、テーブルにずっと座っていられない、とかでもないのをよく知っていたので、私たちは普通にミキオさんにも会えるものだと思っていた。
親族控室に集まる我々。
あれ、ミキオさん、いなくない?親族なのに遅刻?
とか思っていたが、衝撃の状況を理解する。
みきおさんは、式に呼ばれていなかった。
障害(とその他諸々の)理由による相手側ご親族からの「出席拒否」であった。
そういえば、いつものことだと見過ごしてたけど、キセキの人の目がめっちゃ座っている。
こればっかりは気持ちはわかるし、こんなことあるんだな、とシンプルな暴力性に地味に傷つく。
未だかつて体験したことのない人の心が欠けたヤバいお式。
罵詈雑言テーブル
さて、式場にて。
控え室でのキセキさんは、虚な感じではあるがごく普通に、
「お忙しいのに、今日は来てくださってありがとうございます」などと挨拶をして周り、挙式もするっと終え、あっという間に披露宴へ。
「ヤバい結婚式」だと理解した我々は色々覚悟も決めていたが、意外と凪じゃん?と思っていた。
嵐の前の静けさだった。
披露宴はよくある丸テーブル配置。あ〜、私たち、キセキさんと一緒じゃ〜ん。ソウダヨネ〜。
新郎新婦席からは何故か少し距離のあるその「親族席」で静かにそれは始まった。
酒が入ったからか、ふとした瞬間、キセキさんが周囲に呟くように文句を言い始めた。
式は、普通に進行している。
『障害って言ったって、そんな大したものでもないし、座っていられないものでもないのに。』
初めは静かなトーンだったが、だんだんヒートアップしてくる。
『実の兄弟なのに、なんで参加できないの!何なのよ!!!』
そこは間違いない。シンプルに酷い。
『ぼーっと座ってればそれだけじゃない、参加できないなんて、間違ってる!!あんまりよ!!』
流石にスピーチみたいな時はキセキさんも黙るが「生い立ちビデオ」とかそういうイベント系ではキレがとまらない。
進行を妨げるような大声ではないが、普通に結構な大ボリュームで大騒ぎ。
私たちは親族の集まりで比較的よく見る光景だけど、知らん人が見たらビックリするだろうな、などと思いつつ、そんな事を気にするそぶりもないキセキさん。
状況も状況なので、キセキさんの旦那さんもどうしようもない、みたいな態度だし、近くに座っていた父も兄弟も「それは流石に相手家族が酷いね、うんうん」という態度で優しい声かけをしている。
私は同じ親族席に座っている別親族と「これは仕方ないですね」「そうですね」と目配せをし合う。
なおとさんの結婚自体はシンプルに嬉しいんだけどなぁ…。
料理やお酒を注ぎに来てくれるホテルの人も、ごく近くのテーブルの人たちも、私たちのテーブルの異様な雰囲気に気がついてはいるけど、まるで別空間のように、ただただ式は進行した。
キセキさんはとにかくずーーっと愚痴り、わぁわぁと騒いでいた。
怒りのボルテージすごい。いやわかる。わかるけどね…。
こうなっちゃった理由…
最終的に他の親族に聞いてふんわり分かってたのは
『障害のあるミキオさんを相手親族が嫌がった』
という単純なストーリーとは少し違う事情だった。
どうやらキセキの人
「ミキオさんの老後を含めた将来の面倒を、なおとさんとその奥さんに将来見てほしい」
と、なおとさん達にしつこく迫ったらしい。
突然、家に押しかけてなおとさんの奥様にミキオさんと会わせようとしたりとか、なんかそう言う類のことを色々と。
そ、そりゃあ奥様も相手親族も引くよね…。
なおとさんも困ったんだと思う。
そういう振る舞いに辟易とした相手親族のお気持ちを収めるために、最終的になおとさんは「ミキオさんを式に出席させない」という形で一旦の区切り…というか意思表示をしたようだった。
うん、まぁ、酷いのはかわらんけどな。
でも、こうなってしまった原因に少なからず「キセキさん」の行いが絡んでいたようだった。
ホントのところや細かいところはまぁわからないけど。
なおとさんはまだ20代と若かったが、式の最後、一部区画で蔓延する「ヤバイ雰囲気」を払拭するような、長くて立派なスピーチをされていた。
何というかやるせなかった。
式が恙無く終わり、更衣室で手早く着替える時「キセキさん」は言った。
『あ〜ひさしぶりに騒いでスッキリした!楽しかったぁ!発散できた!』
そ、そ、そういうとこだぞ…!!!!
式場でうっかりカウンセラーならびにゴミ箱役を任されどっぷりと疲労して、我々家族は帰路についたのだった。
メンヘラ系お母さんに育てられた私の兄弟は兄弟で、
「いや〜、何か久しぶりっていうか、むしろ懐かしかったよね〜、母さんが死んで以来じゃない、ああいうの。あの正気じゃないって感じ?母さんを思い出した〜。」
とか言ってつよつよだった。
私はげっそりしました。